続 ブルーフィルムを巻き戻して‐怒りをこめてふり返れ
こちらの記事の続きです。
千穐楽を観てからこれを書いている。
初日、19日、22日マチネ・ソワレ、30日千穐楽。合計5公演の観劇。
その中でも22日のマチネ公演はすごかった。演者全員の気迫というか、熱というか、なにかとんでもないものを観ているんじゃないかと思うほど、私が見た中で一番良かった。
この公演の席が最前列の下手だったのもあるかもしれない。近くで観ると圧倒されてしまった。この舞台は下手で観るのが一番良かった気がする。
1幕と2幕の感想は前回の記事にあるので、そちらからどうぞ。
3幕
アリソンとレッドファーン大佐の会話
ここのアリソンはとにかくジミーに似ている。喋り方と言葉の間、そしてそれを無意識にしてしまっていることも。これがジミーとアリソンの関係性を表しているんだと思う。二人は似た者同士。
シアタートークの際、演出を手掛けた千葉さんが、「レッドファーン大佐は数十年後のジミー」だと言っていた。彼も年老いたらこんな風に怒りを落ち着かせてしまうのかな。それはジミーにとって生きているの言えるのかなあ。
アリソンのセリフで「裁判じゃないんだから」とある。アリソンにとっての裁判官は大佐なのかな。ジミーにとってはヘレナがそれ。
大佐はアリソンがジミーに似てきたこと、変わってしまったことに気付いているし、それについて言及もしている。
「お前には彼の言うことがわかるんだろう」そして取り残されるジミーの写真とクマのぬいぐるみ。かわいそうなクマ。
アリソンとクリフの会話
「君、本当に出ていくの?」
このクリフの問いかけって、何もかもが詰まっている気がする。きっとあの奇妙なトライアングルを一番崩したくないのはクリフなのかも。クリフが愛していたのは、アリソンで、ジミーで、そしてこの奇妙なトライアングルだったのかもしれない。完璧じゃない、居心地の悪い空間が、クリフにとってはかけがえのないものなのかな。
手紙をクリフに託そうとするアリソンの言葉。「私は古臭い女よ」
これは1幕のジミーのセリフに繋がる。→「どうも俺には古臭いとこがあって~」
アリソンが出ていったあと、新聞を読み始めるクリフの表情が見えた。正面からだと隠れているけど、くしゃくしゃに泣きそうになってた。
ロッキングチェアでクマのぬいぐるみを抱くヘレナ・戻ってくるジミー
ここ、多分すでにジミーのことを愛おしく思っているんだよね……。だってあんなに愛おしそうにクマを撫でてる。離れ離れになっていたリスとクマのぬいぐるみをもう一度隣に置いてる。個人的にヘレナの一番悲しいシーンだった。
戻ってきたジミーに言った「アリソンに赤ちゃんができた」というセリフ。これは正真正銘、ヘレナによるジミーへの攻撃なんだよね。爆弾。でもこれもなんか切なかったなあ。
ヘレナに引っ叩かれたジミーの表情が素晴らしかった! 驚き、「信じられない」というような表情から、ふっと絶望する流れ。あの表情、忘れられない。叱られた子供みたいだった。
4幕への転換の時に、窓際でパイプを燻らせながら指輪を外すジミーがかっこよすぎてテンション上がった。あと着替える時も。二の腕ありがとう。
▽好きなセリフ
アリソン
「アメリカのクイズ番組みたいね。64ドルの問題!」
「復讐のために結婚する人だっているのよ」
「精神的な野生児が、私に挑んできた」
「パパは何もかも変わってしまったから傷ついている。ジミーは何もかも変わらないから傷ついている」
大佐
「人はお互いに愛し合って結婚するのが当たり前だと思ってきた。しかしどうやら今の若者にはそれでは単純すぎるんだろうな」
「お前が今やろうとしていることは、大変な事なんだよ」
クリフ
「誰が奴に話すの?」
「この気ちがい病院は俺たちがなんとか続けていくよ」
「誰かが傷つくのは見たくない」
「君が正しいことを祈っているよ」
4幕
ヘレナの服が黒→キャメル→赤に変化しているのは、ジミーへの気持ちの変化なのかなって思った。
あとアイロン台への向かい方が、アリソンはジミーに背を向けているのに対して、ヘレナはジミーの方を向いている。これ、切ない。
最初、1幕と同じことやってるんだよね。登場人物が違うだけで。クリフのイライラというか、居心地の悪そうな演技、上手かったなあ。ジミーの空元気さと、ヘレナの怯えも。
3人とも居心地の悪さを感じているのに、誰一人としてそれを言い出せなくて。ぐるぐるとくだらない、何の生産性もない日を繰り返していたんだろうか。アリソンが出ていってからの数か月。
ジミーの空元気さと、光のない瞳がとても悲しかった。そこに情熱はもうなかった。だって怒りがない。
ジミーとクリフの歌
歌詞を耳コピしたので載せておく。
いつか指輪買って誓うのさ 愛を
時代もそう悪くないと
彼女のママは俺を嫌ってる態度
パパに頼む以外はないの
いまじゃ忘れられちまったぜ Middle class
残してよ 真心乱れていたい
天使たちは笑っているだろう
この恋の行方を知るだろう
怖がるな恋をするのを
(彼女はお前より上の人間)
怖がるな恋をするのを
(彼女は 全部お前より上だけど)
これってアリソンの歌なのかなぁ。ヘレナはこの歌をどんな気持ちで……。
ジミーとクリフの会話
このシーン本当に悲しかった。親友なんだな~って思った。
クリフがわざと明るくさよならを伝えているのが本当に優しすぎて、優しすぎて、つらかった。さよならだけで終わってしまう人生。なんて寂しいんだろう。でもそれって結局はジミー自身の問題であって、引き止めることさえしないからなんだよね。
ジミーがクリフに対して「だらしのない小動物」だと言ったところ。ジミーにとってのクリフがかけがえのない存在だってよくわかる。彼もほら穴の住人なんだ。少なくともジミーの中では。
ジミーがヘレナから手に入れたかったものって、なんだったんだろう。
アリソン登場
ジミー本当にクズすぎて笑った(笑)めっちゃすぐ出ていく(笑)
ヘレナは狂ったふりをしていたんだなあと思った。きっと彼女は誰よりまともで、誰よりも善悪を知っていて、だからこそ狂ってしまいたかった。でも出来なかった。それって生き地獄じゃないのかなぁ。
ヘレナとアリソンって本当に親友だったんだ! って、ここで初めて納得する。だって同じ男を好きになって、そいつの悪口言い合って、笑い合えるなんて、なかなかない。ここの二人が可愛くてかわいくて大好き!
ジミーが戻ってきてからのヘレナが愛おしくってたまらない。あんなに切ない愛の言葉ってない。ジミーの髪の毛をくしゃくしゃにするヘレナのこと、大好き。
ヘレナは出ていくとき、笑ってる。とても綺麗な笑顔でサヨナラする。美しかったな。
ジミーとアリソン
このシーン、一生忘れられないだろうな。アリソンの叫びが痛くて、ジミーの怒りが消えてしまって。
二人はお互いのことを求めているようで、実際は求められたかったのかな。それとも。初めて会ったときからずっと好き同士なのに、どうしてこんなにすれ違ってんだろう。4年も一緒に暮らしてるのにね(笑)
ジミーの一人称が「俺」から「僕」に変わった瞬間、ああこの人は死んでしまった! って思ってしまった。あそこにいるのは生気を失った人間に見えた。
「かわいそうなリス」と言いながら、ジミーは微笑んでる。幸せそうに。なんて演技だろう!
アリソンが自分の手の中に堕ちてきたのが嬉しくて仕方がないような、でも絶望しているような。残酷な演技。
青く照らされた二人はどうなったんだろう。ジミーは賢いから、きっとわかってるんだろうな。
全体を通して
息苦しい話だった。客席さえも舞台の一部のようで、初日はずっと心臓がバクバク言っていたのを覚えている。
あの小劇場すべてがほら穴なんだろうと思う。あの三角舞台の屋根裏部屋は、ほら穴で、そしてアリソンの子宮なんじゃないか? と。
初日に観劇した時、最後のシーンがcali≠gariのブルーフィルムのようで、辛かった。
ブルーフィルムのようなお話。みんな青春が死んで大人に堕ちて行っちゃったあの日。ああ僕はただ誰かの体温と同じになりたかったんです。
— ゆのん (@ammm391) 2017年7月12日
あそこの空間にいたのは青春が死んだ若者たちだった。ジミーはきっと誰かの体温と同じになりたかっただけで。ヘレナのキスを受け入れてしまったのも、最後にアリソンと共に堕ちていってしまうところも。まさにブルーフィルムだった。
4幕の終わり、レコードの回る音が、映写機の音に聞こえた。
私は5公演しか観劇できなかったけれど、その帰り道、毎回ブルーフィルムを聞いて夜行バスに揺られていた。
もう千穐楽から2ヶ月近く経っている。それでもふと思い出すジミーとアリソンとクリフ、ヘレナ、大佐。もう一度会いたいけれど、私はあの酸素の薄そうな、ほら穴の場所を、知らない。
きっと幸せになれないんだろうな。誰も。
それでも、あの5人にいつか朝日が差してくれたらいいなと願わずにはいられない。
だって、朝日は昇るから。*1
*1:ブルーフィルムの歌詞より